生涯教育こんちには。
私の隣人――ドクターりん(林)
   世界ではじめて素手で月にさわった人

今回は私の隣人の科学者のドクターりん(林)に登場していただきます。
ドクターりんは名前からすぐわかるように、台湾出身の中国人です。
ずっと昔に台湾の大学を卒業され、アメリカにわたり、外国人の少なかった頃なので、とても苦労して大学院を卒業され、コンクリートの研究で博士号を取られました。
その後アメリカに留まり、会社、政府関係、大学で働いておられます。 現在70才前後でしょう。私の家から徒歩10分ぐらいのところに住んでいます。
散歩する公園も私たちと同じです。
歩くところは同じでも見るところはちがうのです。私の夫も犬の散歩のために公園に行きますが、いつも下をみて歩いているようです。
ところがドクターりんは上を見て、つまり空を見て歩いているのです。空といっても青空のはるか向こうです。
レーガン大統領がスターウォーズ作戦などと言っていたころ、ドクターりんは空のはるかかなたに思いをはせて公園を散歩していたのです。
ひらめきました。いつの日かスターウォーズの時代が来る、その時、きっと月に基地を作らねばならない。 地球から建物を運ぶことはできないから材料は現地調達になる、すなわち、月の砂でコンクリートの建物をつくる日が必ず来るはずだ。

月の砂の資料を集めて検討し、大胆にもNASAに直接電話しました。
外国人ですからコネなどあるわけがありません。
「すばらしい考えがあります。買ってください」、「電話じゃだめだ。5分間だけ会ってやる。5分間だけだぞ。それでもよければ来なさい」。
彼は5分間の面接のためにシカゴからヒューストンへ飛んだのです。
たったひとりのアジア人が巨大組織のNASAを向こうに回して立ち回りをするのです。
気の遠くなるような話です。こんなアジア人がかつていたでしょうか。
どうなるのでしょうか。
長い話を短くすると、彼はNASAの係官たち、専門家たちを説得してしまったのです。
中国人の話し方を聞いていると日本人とちがって相手を説得するのが上手だなと感じます。 日本人の学者さんはアカデミックなことに焦点があり、相手を説得してやろうという気持ちは薄いようです。
中国人は商売上手です。
「ソ連に先を越されたら大変なことになりますぞ」と脅かしたか、どうかわかりませんが、NASAは月の基地の必要性を認めさせられ、研究費を出すだけではなく、宇宙船アポロのもって帰った月の砂を実験用に貸すことを即座に決定したのです。
砂と言っても月往復の交通費が億ドルですから、月の砂の値段はちょっぴりの量でも何万ドルもに相当することになります。この事件で彼は月の建物の専門家として有名になったのです。
アメリカばかりかフランスの発明百科事典に「人類ではじめて月の砂でコンクリートを作った紳士」と紹介されたのです。
そして世界のあちこちで講演、指導するようになり、日本にも何回も行ったのです。 アジア人のくせに生意気だ、外国人のくせにしゃくにさわる、前例がないからだめだ、などと言わず、役にたつと思えば、すぐに取引をするのがアメリカです。
だから若い外国人がうようよ滞在しアメリカンドリームを果たそうと今日もがんばっているのです。若い人にとってアメリカはやはりドリームランド、魅力のある国なのです。