生涯教育こんちには。
私の隣人
「ドイツの国からこんにちは」オーペアを経験したテアさん

 高校を卒業したらどうしますか。
もちろん次の月からは大学へ行くことを考えるでしょう。
もし子供が1年間何かの仕事を経験してみてから、大学へ行きたいと言い出したら日本のご両親はどう答えるでしょうか。
もちろん、どんな親も反対はしなくても、賛成することもないでしょう。
家にいられたら、ぶらぶらしているように周囲から思われるかもしれません。
家を出てどこかにパートタイムで仕事をするとなると、女の子ひとりでは危険ではないか、と心配になります。
もし行く先が外国となるとますます慎重にならざるをえません。
人生経験にはいいのだけれど、1年浪人と同じようで、後で就職のとき、困らないかしら、と先のことが心配になってきます。
日本は何でもいっしょ、人生のバスもいっしょ、何年生まれだから何年に高校のバスに乗ったはずだ、そのバスに乗れなかったのは何かあったのではないかしら、と疑わしい目で見られるかもしれません。
そう考えると高校を卒業したら、すんなりと大学へ入ってほしいのが日本の親心ではないでしょうか。
 アメリカでは、昔は、子供は子供の人生で、親は親の人生と割り切って、親が子供の人生に干渉することはあまりなかったようですが、このごろは「ヘリコプターペアレント」などという親が現れました。
ヘリコプターのように、いつも子供の上空をぐるぐる回って見守っていて、いざとなると、さっと舞い降りてきて、子供を守るのです。
悪いことばで言うと「干渉する」のです。
子供の受験はもちろん、日本の親と同じように大学卒業後の就職試験にも立ち会うのです。
「狂育ママ」は日本だけではなくなったのです。
アメリカのヘリコプターペアレントは日本のお受験、就職試験に立ち会う狂育ママと同じです。

 ではドイツではどうなのでしょうか。ドイツも教育ママなのでしょうか。
私の日本語のクラスにドイツから来て、ホームステイして、大学に通ってくる女の子がいます。
名前はテアさんです。もう一年近くになりますが、6月にはドイツに帰国するとのことです。
どうしてドイツから来たのか、どうやってアメリカに滞在しているのか、興味があるのでインタービューしてみました。
 この女の子は19歳でドイツの北の地方、デンマークに近い地方出身で両親は大学の教授です。
小学校4年までが義務教育で、その後大学希望者は9年勉強し、就職希望者は6年勉強するのです。
合計13年勉強した人は大学受験の資格が与えられます。
テアさんは2006年5月に高校を卒業したのですが、そのまま大学には行かず、人生の新しい経験を求めてアメリカに来たのでした。

 ドイツの高校生のなかには、テアさんと同じようにそのまま大学へは進まず、1、2年間人生の経験をしてから大学へ行くケースが増えているそうです。
日本と違って、反対する親は少ないそうです。
テアさんの親は基本的には賛成してくれたのです。
ではどこでどんな経験を求めるのでしょうか。  テアさんをはじめドイツの女の子の希望は「オーペア」と呼ばれる仕事なのです。
「オーペア」と聞くと、「ああ、あれだな、住み込みのベビーシッターだな」、とわかる人もいるでしょう。
「変な言葉だな、英語なのかしら」と思う人もいるでしょう。
それそのはず、これはフランス語がなまって英語になった言葉なのです。
フランス語で「同じ、等しい」という意味の言葉です。
一体「住み込みベビーシッター」と「等しい」ことがどうやって結びつくのでしょか。
たしかに、仕事は「住み込みベビーシッター」だけれど、これは「召使、奴隷」としてやっているのじゃない、ホストファミリーの一員となって、ホストファミリーと「対等の立場」で、文化交流、交換の意味も含めての「お手伝い」の一環としてのベビーシッターなのだそうです。
オーペアはホストファミリーの一員であり、友人であり、互いに尊敬をもって応対しなければならないのです。
オーペアはベビーシッターの能力とエネルギーを提供し、ホストファミリーは家族の一員としての待遇、すなわち、部屋をはじめ、住む環境を提供するのです。
ホストファミリーはオーペアの教育も考えなければなりません。
これならとてもよさそうに聞こえますが、実際には召使的ベビーシッターの待遇をうけているオーペアもいるようです。しかし、理念はあくまでオーペアはホストファミリーの一員なのです。
 オーペアをホストファミリーに斡旋するエージェントはドイツにはたくさんあるのです。
エージェントはオーペア希望者に、外国のホストファミリーを斡旋するのです。
アメリカのお金持ちの家族をホストになってくれることが多いそうです。
テアさんは両親の許可を取ると、2006年1月からエージェントと交渉を始めたのです。
まずインターネットでエージェントを探し、自分の希望と家族状況を述べ、ネットだけでは危険なので、エージェントに面接し、話を煮詰めていくのです。
ドイツのエージェントはアメリカのエージェントと連絡してマッチするホストファミリーを探すのです。
テアさんは二人の妹さんがいるので、ベビーシッターは慣れているのです。
ベビーシッターの経験とその他の希望を考慮して、エージェントはいくつかのアメリカのいくつかの家族を紹介し、テアさんはひとつひとつ電話で話し合っていったのです。
国際電話ではお金が大変かな、と心配しましたら、たいていはアメリカのホストファミリー希望者から電話がかかってくるそうです。
最終的にはシカゴの郊外のお金持ちの家族と話し合いがつきました。
エージェントに払ったお金はだいたい正味500ドルです。
2006年6月下旬にニューヨークにやってきました。
ニューヨークで他のオーペアたちといっしょに、アメリカ生活の基本的な訓練会があったのです。
そこから各地に配属です。
テアさんはシカゴにやってきました。
往復の交通費はホストファミリーもちです。
滞在費(部屋代、食費、車のガソリン代、その他)もホストファミリーもちです。
すばらしい、私も希望したい、と思う人はちょっと待った。
子供は9歳と7歳の女子、4歳の男の子、そしてテアさんが到着すると、待ってましたとばかりに生まれた男の子がいるのです。
ホストママは38歳の若さです。
ホストパパは仕事ばかりで家にいることが少ないのです。
いくらホストファミリーの一員としてベビーシッターをするといっても、子供4人相手は簡単ではありません。
1週120ドルが支給されます。

子供といっしょに住むと過剰労働の可能性が大きくなります。
オーペアを守るために規則があって、週48時間就労、1日10時間以内、1週間のうちに1日は休日、となっています。
この規則があっても疲れ果ててしまうことがあるそうです。
19歳の青年でも疲れてしまうのですから、オーペアの仕事は決して楽ではないのです。
しかし、この規則を守りながら学校に行くことが出来るようになっています。
そのせいか、テアさんのアメリカ滞在のビザのタイプは交換学生ビザをとってあります。
テアさんのホストファミリーは1学期500ドルまで授業料を補助し、車の使用を許可しています。
住む部屋もガラージの上の部屋で、バスルームもあり、テレビ、電話もあるし、気持ち良くすめるので、自分はラッキーだったといっています。
オーペアの中には地下室に住まされたり、子供の部屋に住まされたりして、プライバシーが守れなくて困っている仲間もいるそうです。
ドイツと比べてアメリカの生活はどうですか、と聞いてみました。
第1に食べ物に関しては、アメリカはジャンクフードが多い。
ホストママが忙しいので、ピザとかハンバーガーになってしまうそうです。
第2にアメリカは車社会です。
ドイツの大学生は車で通学する人は少ないのです。
たいていは自転車、公的交通機関に頼っています。
第3に空き時間があってもショッピング以外にやることがありません。
ドイツでは16歳からビール、18歳から一般のアルコールが飲めるので、バーに行くことが多いそうです。
第4にホストファミリーの旅行にいっしょに連れて行ってもらったこともありますし、自分だけの休暇も2週間認められていて、仲間と旅行に行ったこともあります。

テアさんはアメリカに来てもさして違和感は感じていないようです。
そのわけを考えてみました。
そのひとつは英語です。
アメリカにいるドイツ人はアメリカネイテブと変わらないぐらい流暢に英語を話すのです。
ドイツでは5年生から英語教育が始まり、9年間続きます。
日本語や韓国語を母国語とするのと違って、ドイツ語と英語ではほとんど同じアルファベットですから、言葉の違和感が少ないのです。
ドイツなまりの英語ならアメリカは受け入れてくれるのです。
キッシンジャーがそうでした。
アジア人がオーペアをするときは、英語がかなりたんのうでないと受付けてもらえないでしょう。
テアさんがアメリカで違和感は感じない、もうひとつの理由は、ドイツもアメリカにも基本的には白人の世界なのです。
生活習慣も似たようなものです。テアさんは青い目、金髪なので、ホストファミリーの子供たちも同じ種類の人間だと思うでしょう。
アジア人がオーペアすると白人の子供たちはどう対応するでしょうか。
ホストファミリーの一員といっても、かなり姿の変わった一員ですから、子供たちから、何か言われそうな気がするのは、日本人の私の取り越し苦労なのでしょうか。
さて、これからテアさんはどうするつもりでしょうか。
オーペアの規則では2年間滞在できるそうですが、テアさんは、アメリカ滞在は1年で終わらせて9月からドイツの大学へ行く予定です。
6月帰国を前にして、お土産を考えているそうです。
19歳の青春真っ只中のテアさん、前途洋洋です。
今度会うときのために、ドイツの挨拶を習っておかなくちゃー。
エーと、辞書を開くと、「さよなら、また会う日まで」は、アウフヴィーダーゼーン
See you again, 再見ザイチェーン。

次回も新しい出発を始めた人を紹介します。楽しみにしてください。